読書日記 2008年1月

・読みおえた本の感想です。
・本の画像はクリックすると拡大されます。あまり拡大されない場合もありますが、仕様です。
・とくに気にいった/お薦めしたい本には★をつけています。(内容の優劣ではありません)


「機動戦士ガンダムUC 1・2 ユニコーンの日(上・下)
福井晴敏/角川コミックス・エース/07年9月

【U.C.(宇宙世紀)0001。宇宙移民の開始が宣言された年。地球連邦政府首相官邸、宇宙ステーション《ラプラス》が爆破テロに遭う。貧困からテロに加わった青年・サイアムは、《ラプラス》の残骸のなかであるものを発見する。そしてU.C.0096。父を知らずに育った少年バナージ・リンクスと、コロニー行きの船に密航した謎の少女が出会ったとき、宇宙世紀百年の歴史を滅ぼす《ラプラスの箱》をめぐる闘争が幕をあける】

 「初代のガンダム以外は本質的にガンダムじゃない」という意見は、よく耳にします。しかし
「《俺ガンダム》こそファーストガンダムの正統な続篇にふさわしい」という中学生じみた妄想を、ほんとうに実現させた大バカヤロウは福井の兄貴くらいでしょう。番外篇ではなく、純然たるガンダムの最新作であることを強調するために、あえてコミックスのかたちで出版する無茶っぷりもすばらしい。まんがだと思って買ったひともいるだろうな。

 ガンダムと聞いて、なんとなくアムロとかシャアが思いうかべば、予備知識がなくても読めると思います。挿絵も多いし。宇宙が舞台というだけで、いい意味で「亡国のイージス」や「終戦のローレライ」とおなじように、9・11以降の現代の情勢を投射しています。ガンダムとしての出来を判断できるほどの素養がおれにはありませんが、マニアにもおおむね好評のようです。


「鹿男あをによし
万城目学/幻冬舎/07年4月

【神経衰弱と断じられ、大学の研究室を追われた二十八歳のおれは、失意のままに教授の勧めにしたがって奈良の女子校に赴任する。慣れない土地柄、生意気な女子高生、得体の知れない同僚、さらに謎のしゃべる鹿にかかわったおかげで、おれの奈良ライフは気も狂わんばかりに波瀾万丈の日々になってしまった】

 喩えるなら、伊坂幸太郎のような、森見登美彦のような、初期の筒井康隆のような。先がよめない筋書き、ユーモラスなキャラクタ、剣道の巧みな描写、伏線のみごとな回収。うまい。いっきに読ませます。
 あえて欠点を挙げるなら、前述の作家たちが有する不穏な文学性にはやや欠けるのですが、これは読みやすさにつながる長所でもあります。小説好きにも、あまり本を読まないひとにも、均しく薦められる好著。


「哀しみの余部鉄橋 十津川警部
西村京太郎/小学館文庫/07年7月 (05年7月)

【クラブホステス絞殺事件の捜査線上に浮かんだのは、なんと新宿署の警部だった。表題作をはじめ、山陰の温泉芸者殺人事件「十津川 民謡を唄う」。流氷の北海道が舞台の演歌作詞家失踪事件「北の空 悲しみの唄」。北へ帰る青年が何者かに殺された「北への殺人ルート」。旅情漂うトラベルミステリー短篇集】

 はじめて、西村京太郎を、読んだのですが、句読点が、異常に多い、独特の文体に、面食らいました。台詞だけで、話が進んでゆくので、わざわざ、脚本に起こさなくても、このまま、二時間ドラマの台本に、つかえそうです。わずかな、分量ですが、北海道の春の、気候の描写が、的確なのが、うれしかった。


「レティーシュ・ナイツ 翡翠の王女
榎木洋子/小学館ルルル文庫/07年12月

【グランドリュン王家に仕える騎士の名門・チェインバース伯爵家。末娘として生まれたレティーシュは、騎士である三人の兄に囲まれて平和な日々を送っていた。それぞれ容姿端麗で有能な兄たちに比べ、平凡な自分を嘆いていたある日、運命の出会いがおとずれる。銀の髪の王家と騎士たちが織りなすドラマチック・ファンタジー】

 軽快なファンタジーです。非常に手馴れた語り口で、すいすい読ませます。キャラクタの内面を深く掘りさげるというより、読み進めるごとに展開されるさまざまなシチュエーションに浸ってたのしむ感じ。レディ・アンジェラという人物のこころの闇が、味わい深くて気になります。

「沙漠の国の物語 楽園の種子
倉吹ともえ/小学館ルルル文庫/07年5月

【沙漠の聖地カヴルで天真爛漫に育った男装の少女ラビサは《使者》として旅立つことに。シムシムは水をもたらす奇跡の樹で、その種子を植えるにふさわしい町をひとつだけ探すのだ。旅立つ直前、カヴルが盗賊《砂嵐旅団》に襲われ、ラビサは突如現れた謎の少年ジゼットに救われた。ふたりは運命の旅にでる】

 新人賞受賞作ということで、全体的に硬い。文章が難解というわけではないけれど、ごつごつとした読み心地です。まあ、これはしだいに洗練されてゆくでしょう。砂漠の国という特殊な舞台ならではの人間ドラマを、きちんと展開しようという気概は感じられて、好ましかったです。

Classical Fantasy Within 第一話 ロケット戦闘機『秋水』
島田荘司/講談社BOX/08年1月

【戦局が風雲急を告げ、日本の降伏が濃厚となった昭和二十年。亡国の危機を打開するため、最新鋭の高速度ロケット戦闘機《秋水》の研究開発に携わる《ミツグ伯父さん》を慕い憧れる少年《ぼく》。しかしその現実は、奇妙に、そして確実にねじれていく。超弩級のファンタジー・ワールド、全十二巻】

 序盤も序盤、プロローグなので物語の全貌は不明ですが、戦時下を舞台に日本人批判を織り込みつつ、妖しい科学兵器が登場するジュヴナイルSFです。これからおもしろくなりそうなのですが、島田荘司は二千枚クラスの長篇を何冊も著しているので、大河ノベルのありがたみはありません。一冊千円で、十二巻か。上下巻でだせば合計で五千円くらいで済むだろ。ほんと講談社BOXはボッタクリレーベルです。

魔術はささやく」 ★
宮部みゆき/新潮文庫/93年1月 (89年12月)

【それぞれは社会面のありふれた記事だった。ひとりめはマンションの屋上から飛び降りた。ふたりめは地下鉄に飛びこんだ。そして三人めはタクシーの前に。相互の関連など想像し得べくもなく仕組まれた三つの死。さらに魔の手は四人めに伸びていたが、逮捕されたタクシー運転手の甥、守は知らず知らず事件の真相に迫っていた】

 これを二十九歳で書いちゃうんだもんな。宮部みゆきは天才だよ、まったく。充分に単独の長篇になりうるストーリーを三つ、四つと絡め合わせて、まったく先が読めない物語をつくりあげています。おれがいちばんすきなのは、221~224ページの、中盤の山場。何度読み返しても震えがきます。ページをめくる手を止めさせない、濃厚なサスペンスです。松本清張のように、五十年後も版を重ねているでしょう。


薔薇乙女学院へようこそ! ローズ・プリンスを探して
檜原まり子/エンターブレインB's-LOG文庫/08年1月

【政略結婚までの猶予期間という条件で、全寮制の《華苑女学院》に通うことになった紫子は、編入初日、初恋の相手と瓜二つの美少女・雨宮斎と出会う。《PRIMA ROSA》と呼ばれる集団の一員で、生徒たちの憧れの的である斎に、近づこうとする紫子だが。乙女の恋がつまった学園小説】

 明治のお嬢さま学校が舞台の恋愛ものです。前作「華・族・探・偵」シリーズでみせた、上品でしっかりした筆力は健在。するするとよどみなく読めます。固定ファンの多い作家にありがちなのですが、ほとんどの伏線を次巻以降にもち越しているので、これ一冊での評価はむずかしい。おもしろくなりそうだけど、まだわかりません。

「死神姫の再婚 薔薇園の時計公爵」 ★
小野上明夜/エンターブレインB's-LOG文庫/08年1月

【《死神姫》と噂の天然系・アリシアの再婚相手は、悪名高くて誇り高い《強公爵》カシュヴァーン・ライセン。夫婦揃って結婚報告をするためアズベルグの前領主・ディネロのお屋敷を訪れたのだが、その訪問には複数人の陰謀と、意外にも暴君夫の《焼きもち》が絡み合って。新人賞受賞作第二弾】

 天然ボケでホラー大好き、なにが起きても興味津々で動じないアリシアがすてきです。カシュヴァーンとのラブ度も微妙にあがっていますが、むしろカシュヴァーンと、わけありの美男子たちとのやりとりがラブいような気が。腐女子の妄想にも対応しつつ、しっかりとした人間ドラマを構築していて、じっくり読ませます。キャラクタの描きわけがうまい。三巻、四巻と続いてほしいシリーズです。

「奪いにまいります! 平安盗賊恋♡絵巻
剛しいら/エンターブレインB's-LOG文庫/08年1月

【本来ならばお姫様なのに、盗賊の頭領息子として育った紅丸は、出生の秘密を握る《力玉》を探すため、陰陽師・明野子門と組んで貴族になりすまし、東宮・慶仁とお近づきになることに大成功! 今度はその妹姫に扮したが、冷酷非情で有名な左衛門督・橘公明がただならぬ興味を。平安ファンタジー第二弾】

 さらさらと書いているようで、過不足のない巧みな文章です。おなじレーベルでだしている「金の王子」シリーズと人物の配置がおなじなのも、二巻めでそんなに気にならなくなってきました。時代背景がちがうと、雰囲気もけっこうちがってくるものです。あなどれない佳作。


「倒立する塔の殺人」 ★
皆川博子/理論社ミステリーYA!/07年11月

【太平洋戦争末期、軍部からの監視が厳しいミッション・スクール。中等部に通う少女は、図書室で一冊のノートを見つける。表紙をめくると、美しい蔓薔薇模様で囲まれた《倒立する塔の殺人》というタイトルだけがあった。ノートの持ち主は、流行のリレー小説をさせたいのではないか。少女はそのひそやかなたくらみに加担するが】

 もっと浮世ばなれした内容と思いきや、戦中から戦後まもなくの時代の空気も濃密に表現していて、地に足をつけつつ、耽美で幻想的なイメージを咲かせる秀作でした。作者が実際にその時代の女学生だったというのが凄い。御歳七十八。なんでこんな妖しくみずみずしい少女小説が描けるのか。皆川先生の御本ははじめて読みましたが、噂どおり、素晴らしかったです。


黒塚
夢枕獏/集英社文庫/03年2月 (00年8月)

【十二世紀末。鎌倉に追われる義経と弁慶は、黒蜜と名乗る妖麗な女に助けられる。十九世紀。奥州山中の荒屋に宿を請うた男は、生首となって生きる九郎坊と遭遇する。そして未来。九郎坊は高層ビルから廃墟と化した都市を見下ろしていた。永遠の命を生きる異形の者の、時空を超えて展開する愛憎と闘い】

 夢枕獏は「はじめて小説を書いてみた男子中学生」みたいな未熟さを多く残したまま大御所になった、ふしぎな作家です。この作品も、本質は古典に材を採った悲恋物語なのに、六百ページのうち三百ページくらいは、本筋に関係ない《北斗の拳》風味のSFバイオレンスが展開されます。そこも、蛇足と切り捨てるには魅力的だから、かえってこまるんだよな。

密会
安部公房/新潮文庫/83年5月 (77年12月)

【ある夏の未明、突如やってきた救急車が妻を連れ去った。男は妻をさがして病院に辿りつくが、彼の行動は逐一盗聴されている。二本のペニスの馬人間、溶骨症の少女、《仮面女》など、奇怪な人物とかかわる男の困惑を通じて、病院の迷路に息づく絶望的な愛と快楽、出口のない現代人の地獄を描く】

 歯ごたえのある純文学です。不条理で前衛的。「ペニス」「手淫」という単語が頻出するのが可笑しい。脈絡なくなんでも起こる、淫らで滑稽なイメージの連発に、最後まで困惑しっぱなしでした。その寄る辺ない読後感こそが、この作品の狙いなのかな、と思ったり。おれに文学的な素養が足りないだけかもしれませんが。

クローバー」 ★
島本理生/角川書店/07年11月

【女子力全開の華子。理科系男子の冬冶。ふたりは《顔はそっくりだが、内面は赤の他人より共感できない》双子なのだ。新しい恋に邁進せんとする華子に、いろんな意味で超強力な熊野が求愛。冬冶も、微妙に挙動不審な才女、雪村さんのアタックを受けて。恋愛小説の若き名手、初のコメディタッチ長篇】

 いままでにない軽いタッチで描かれていますが、やっぱり島本理生の小説です。読者の息が止まるほど核心をついてくる、恋愛状態にある人間の心理描写の数々が凄い。コミカルな場面も妙に真剣味が漂っていて、笑っていいものかどうか迷うという欠点はありますが。それにしても、雪村さんの存在感! 彼女が冬治にさらす喜怒哀楽が、まるでおれに向けられているようで、心臓が痛かったです。ほろ苦いラストも秀逸。


ルピナス探偵団の憂愁
津原泰水/東京創元社クライム・クラブ/07年12月

【高校時代《ルピナス探偵団》として様々な事件に遭遇してきた少女たち。卒業後、ひとりが不治の病で世を去った。久々に顔を合わせた仲間たちに残されたのは、彼女が死を前にして百合の樹の林に造らせた、奇妙な小路の謎だった。現在から高校の卒業式まで、時を遡って描かれる四つの物語の結末は】

 読みやすいのに、どこか幻想的な香気がある。津原泰水のふしぎな筆力は今回も健在です。せりふのやりとりだけで、登場人物のたたずまいが鮮やかに立ちあがってくる。単品でもたのしめますが、興味をもったひとは、ぜひ前作「ルピナス探偵団の当惑」(創元推理文庫)を先にお読みください。
二冊併せれば★がつきます。

黒を纏う紫
五條瑛/徳間文庫/07年4月 (04年2月)

【大量の移民に溢れかえる《夜の都》。巨大都市のエネルギーを支える《特殊物質》が危険なカルト教団に狙われた。特殊物質運搬者の鶴見にテロリストの魔手が迫る。この街にすべてを奪われた男の運命を握るのは、ひとりの女。アクション、バイオレンス、エロスが満ち溢れた五條瑛の新境地】

 喩えるなら、馳星周が女子だったら、という感じでしょうか。硬派なストーリーに散りばめられた感傷的なモノローグの数々が、この作者の個性でもあり、リアリティを損なう欠点でもあり。クウという悪魔のような移民の美少年を、とても魅力的に描いており、腐女子のファンが多いのも納得です。

阪急電車」 ★
有川浩/幻冬舎/08年1月

【恋の始まり、別れの兆し、そして途中下車。八駅から成る、片道わずか十五分間の阪急電鉄今津線で、駅ごとに乗り降りする乗客たちの人生がすこしずつ重なって。ひと駅ごとに起こる人生の決定的な瞬間が鮮やかに描かれた連作掌篇集】

 プロフィール欄にわざわざ《文藝春秋で新連載開始》と記すなど、「このひと直木賞獲りますから」という出版社のいやらしい期待が露骨すぎますが、たしかにおもしろい。ごく平凡な、しかし個性豊かな登場人物が織りなす、いい話がてんこもりです。とくに翔子という女性のエピソードは痛快で切なくて、印象的でした。後半は《折り返し運行》と称して、前半の後日談がもれなく語られるのも、お得感があります。

とある魔術の禁書目録
鎌池和馬/メディアワークス電撃文庫/04年4月

【《超能力》が《一般科学》として認知された、アンチ・オカルトの学園都市。上条当麻の部屋に、純白のシスター姿の少女がいきなり空から降ってきた。《インデックス》と名乗る少女は《魔術》の世界から逃げてきたという。いぶかしむ当麻だが、ふたりの前に本当に《魔術師》が現れて。学園アクションストーリー】

 傍点やおかしな当て字を多用した文体。たいした理由もなく感情が激したり沈んだりするキャラクタたち。青くさいお説教の山。よくもわるくも中学生男子的な要素にあふれかえっています。十五巻を超える人気シリーズとのことで、その若書きな部分が、エモーショナルな物語をつむぐ長所に転じてゆくのかもしれません。

トキオカシ
萩原麻里/富士見ミステリー文庫/06年9月

【幼いころから異常な記憶力を持つ藤沢誠一は、その特殊能力も発揮することもなく、ふつうの高校生活を送っていた。しかし、ひとりの少女との出会いによって、彼の運命の歯車は音を立てて回り始める。自らを時置師と名乗る観池眞名はいう。「貴方は私の《対》です」 時を旅する少年少女の自分さがしの物語】

 ほんとうにまじめな作者です。もっとキャラクタの萌えに寄りかかった展開もあるだろうに、トキオカシの能力が引き起こす事件と、その解決をたんねんに描いてゆきます。ライトノベルとしては硬すぎるかもしれませんが、好きだな、このまじめさ。眞名のツンデレ(デレ多め)具合も適温でした。

TOKAGE 特殊遊撃捜査隊
今野敏/朝日新聞社/08年1月

【大手都市銀行の行員三名がさらわれた。身代金の要求額は十億円。警視庁捜査一課の上野数馬は、覆面捜査専門のバイクチーム《TOKAGE》の一員としてはじめての誘拐事件に挑む。トカゲはどんなに辛くても街中で顔をさらすことはできない。逮捕までは地下に潜れ。警察小説の名手、新シリーズ】

 誘拐犯と警察の息づまる交渉はもちろん、秘密を隠匿したい銀行がわと警察の対立、警察内部の面子争いも同時に描いた、スリリングな展開です。しかし、肝心のトカゲがあまり活躍しないのが残念でした。この題名と表紙なら、バイクチームが街を駆けめぐる展開を期待するだろうが。騙された。内容そのものは上質なので、腹は立ちませんが。

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