読書日記 2008年9月

・読みおえた本の感想です。
・本の画像はクリックすると拡大されます。あまり拡大されない場合もありますが、仕様です。
・とくに気にいった/お薦めしたい本には★をつけています。(内容の優劣ではありません)


「墓標なき墓場
高城高/創元推理文庫/08年2月 (1962年1月)

【昭和33年、夏、北海道釧路。運搬船『天陵丸』の沈没事件にまつわる不審な点を追求していた、新聞社『不二新報』支局長の江上は、なに者かの策謀によって釧路を逐われてしまう。しかし三年後、事件の関係者がつぎつぎと変死し、江上は捜索を再開する】

 作者は1950年代に将来を嘱望されていたハードボイルド作家の先駆者。小説という副業をもっていることが、勤め先の北海道新聞社の不興を買い、1970年から37年間、断筆していたそうです。おれのなかで道新の株がちょっと下がりました。
 本作品は現在、唯一の長篇だそうです。短篇のほうがおもしろいらしく、たしかに真相の解明が唐突な印象はありますが、昔の北海道、昔の新聞記者の雰囲気がよくでていて魅力的です。ミステリというよりは、一種の『歴史小説』として堪能しました。

「傭兵代理店
渡辺裕之/祥伝社文庫/07年6月

【各国の傭兵たちをサポートする「傭兵代理店」。東京の代理店に立ち寄った凄腕の傭兵・藤堂は、元刑事で、ある殺人事件の犯人を追い世界を渡り歩いていた。十五年経って事件は時効だが、藤堂の帰国を待っていたかのように謎の刺客が現われ、やがて防衛省と政府要人の陰謀が明らかになる】

 こういう無駄にスケールの大きなB級アクションノベルって、21世紀になってずいぶん減りました。門田泰明も桑原譲太郎も、おもな書き手はみんな時代小説に転向してしまった。このデビュー作も、文庫書下ろしでひっそりと発行です。
 文学賞にひっかかるような高尚さはないけれど、片時も止まらないサスペンスフルな展開、かっちりとした文章力、男の娯楽小説の王道です。

魔界都市プロムナール 夜香抄」
菊地秀行/祥伝社ノンノベル/08年9月

【魔界都市〈新宿〉に住む吸血鬼一族の長・夜香に、軍需企業が放った六名の刺客は、能力では真物に勝るとも劣らぬ人工吸血鬼だった。人工吸血鬼を狙う謎の戦士・ロイド、夜香一族への復讐に燃える古代の怪人・幻空もあらわれ、魔戦は苛烈を極める】

 作中では最強レベルのはずの美青年バンパイア・夜香ですが、敵役の強大さを印象づけるためのかませ犬にされることが多く、不憫なキャラクタでした。とうとう主役です。やっぱり瀕死の重傷を負ったりしていますが、作品としてはたのしめました。敵と味方の愛憎が入り乱れ立場が裏返る、山田風太郎的な集団闘争は、菊地御大の独壇場です。

吸血鬼ハンター D‐不死者島」
菊地秀行/朝日文庫/08年9月

【かつて貴族(吸血鬼)の研究室があった孤島から白い霧が流れ出ると、付近の漁村の住民は貴族の下僕と化して姿を消す。村民捜索のため、町の治安官は賞金稼ぎを雇って孤島に渡った。その途上で、捜索隊の少女・メグは、美貌の吸血鬼ハンター・Dと遭遇する】

 前作「魔道衆」に続いて、今回も秀作です。Dってこういう話だったよな、と基本に立ち返ったおもしろさがある。人間と貴族、貴族とDの関係を再確認、みたいな。このシリーズは世界中のまんがや映画に影響を与えているので、一巻だけでも読んでみてください。

「新・魔獣狩り11 地龍編
夢枕獏/祥伝社ノンノベル/08年9月

【日本の覇権をめぐる闘いは、空海を体内に宿す魔人・黒御所、日本最大の暴力団を率いる白井狂風を軸に、熾烈化してきた。サイコダイバーの毒島は、事件の鍵を握る男の精神に〈潜入〉する。豊臣秀吉、平賀源内までもが関係する『空海の秘宝』は誰のものになるのか】

 なんかもう十年くらい、このあらすじのまま話が停滞している気がします。異常な災害に遭遇するだけが物語上の役割の、チョイ役の魚釣りの流儀の説明で何十ページもつかうからだ。まあ、いやなら読まなきゃいいわけで、ここまできたら最後までつき合います。最悪でも2014年までには完結しますと、トークショーで断言してくれたしな。

「裏切りに啼く 巴の破剣
牧秀彦/KKベストセラーズ時代文庫/07年11月

【直参旗本の次男坊で直心影流の達人・深谷真吾は、この世の恨みを晴らす裏稼業の一味に関わっている。真吾らの仕置きの様子を窺う武士の一団があった。彼らは西国の雄藩の不穏分子で、真吾は不覚にも拉致されてしまう】

 シリーズ四巻めは、いままでの必殺仕事人的な短篇ではなく、長篇仕立てになっています。簡潔で正確な筆致は、作者の真面目なお人柄をうかがわせますが、せっかく居合五段の超・実践派なのだから、もっと剣戟描写が濃くてもいいかも。

「ドブネズミのバラード」 ★
瓜田純士/太田出版/08年9月

【「いたよなあこういうやつ」と思うだろうか?  それとも「こんなやつ見たことねえよ」と思うだろうか?  僕の人生の中で、いつでもどこかにいた、数多くの瓜田たちの中でも、もっとも強烈な瓜田による、もっとも強烈な自伝(菊地成孔) ブログが1日20万アクセス、不良のカリスマの処女出版作】

 幼稚園から(!)喧嘩に明け暮れ、新宿で用心棒組織〈供攻社〉を率い、刑務所にも入った本格派のワル。最近は独特のユーモアがあるブログで知られる瓜田さんの書下ろしです。文章の拙さが、かえって生々しい。「PCエンジン」っていう単語は、おれと同世代の人間じゃなきゃでてこないぞ。瓜田さんが自分のことばで書いている証拠です。
 更生した不良ではなく、現役の悪党のこれから更生したいという宣言なのが凄い。一読の価値があります。

「非属の才能
山田玲司/光文社新書/07年12月

【「みんなと同じ」が求められるこの国で、「みんなと違う」自分らしい人生を送る方法はあるのか? 才能ある人間が生きづらい日本。もはや今の時代、みんなと同じ必要はまったくない。各個人が自分の道を自由にゆけばいい。〈非属〉であることが新しい時代のスタンダードだ】

 山田玲司が栄光も挫折も味わいながら、必死にいい仕事を残してきた人間であることを知らないと、能天気な「変人は天才、変人はすばらしい」という礼賛に読めてしまうかもしれません。ちゃんと読めば本意はわかるのですが。「ひきこもりもOK。ただしネットとケータイは捨てろ。真の孤独から才能は生まれる」「新しいことが成功する確率は0.3%。失敗して当たりまえ」など、箴言ぞろいです。

「恋人を手に入れる猟奇的な方法」
2ちゃんねる新書編集部/ぶんか社2ちゃんねる新書/08年7月

【「イケメンを見つけたら、とりあえず車でひく」「好きな人の実家をこっそり増築する」「腹をナイフで刺して、我慢強さをアピールする」 自称モテない女性2ちゃんねらーによる、彼氏獲得のための「ありえなさすぎ」な作戦集】

 男が書きこんだと思われるつくりすぎのシモネタが多くて、期待していたほどおもしろくありませんでした。簡潔なアイデアからにじみでるおかしさと「こいつマジだ!」という不気味さを、もっと味わいたかった。


「紅 kurenai」 「紅 ギロチン」 ★
片山憲太郎/集英社スーパーダッシュ文庫/05年12月・06年7月

【揉め事処理屋を営む高校生・紅真九郎のもとに、護衛の依頼が舞い込んできた。対象は九鳳院紫、世界屈指の大財閥の御令嬢。彼女の我儘に振り回されながらも、真九郎は心を通い合わせてゆくが、最悪の使者が現れる(紅)】
【紅真九郎を、裏社会の人材派遣結社・悪宇商会が勧誘。一度は応じた真九郎だが、暗殺計画への参加を要請され、拒否する。しかし、商会の殺し屋・斬島切彦が、真九郎と紫の仲までも引き裂き、さらなる窮地へと追い詰める(ギロチン)】

 ロリデレ、ツンデレ、ヤンデレ、デレなしのツンなど、あらゆるヒロインにいじられ愛されるラブコメディ、ダークな心理描写に彩られた凄惨なバトルが共存している、人気アクションシリーズです。作者は菊地秀行のファンを公言しており、それだけでおれの評価は上がるのですが、これはたしかにライトノベルの成果のひとつの頂点です。文章講座で絶対に止められる体言止めの連発。でも、そのクセが文体に昇華されている。キャラクタの存在感もいい。もちろんおれは銀子が好きです。「やらしい」「バカじゃないの」と罵られたい。


「黒猫の愛読書Ⅰ 隠された闇の系譜
藤本圭/角川書店スニーカー文庫/08年9月

【『本の声』を聞く能力を持つ内気な少女・紙村綴。彼女はその力で、借りた者が必ず死を遂げる呪いの本『嵐が丘』の行方を追うことになる。そんな綴の前に『本の探偵』を自称する青年・猫目コウが出現。彼は、謎の書物『N断章』の調査に、綴の特異能力を貸せと告げる】

 文章が生硬なのは、なんとなくスニーカー文庫の特徴のような気がします。実在の古典小説を、伝奇アクションの小道具としてちりばめているところがおもしろい。主人公が眼鏡をはずすと美少女という設定が、時代に逆行しすぎてかえって新鮮だな。これから期待したい作者とシリーズです。

「ベネズエラ・ビター・マイ・スウィート
森田季節/メディアファクトリーMF文庫J/08年9月

【僕、女の子を殺したんだ」 同級生の少年・神野の昔話を、女子高生の明海はあっさりと信じる。なぜなら明海も小学生の頃『同じ少女』を殺めたことがあるから。よみがえるひと夏の記憶、「イケニエビト」の少女、「タマシイビト」からの逃避行。ストレンジな青春ストーリー】

 表紙と、「せつなさはロック」という帯だけで衝動買いしました。なんか音楽ものが流行ってるな、ライトノベル。おれも書こうと思っていたジャンルなので悔しい。
 上遠野浩平や清水マリコを思わせる、日常に異物が違和感なく織り込まれてくる青春ホラーサスペンスです。比喩や物事のとらえ方が、いちいち持って回って斜に構えて「中二病」な感じですが、キャラクタたちがまさにその年代なので、欠点という感じはしないのがうまいと思いました。


「メイド刑事6」 「メイド刑事7
早見裕司/ソフトバンクGA文庫/08年2月・7月

【謎のスナイパー・ビューティ鵜飼に国務大臣暗殺を依頼した木ノ上は、ある邪悪な計画も企てていた。一方、葵は木ノ上の思惑通り、大臣警護のため保養先まで同行することになる。だが風光明媚な温泉地には、さらに貴美香によって狡猾な罠が張り巡らされていた(6)】
【執事の朝倉がミステリマニアの犯した犯罪を暴く「朝倉老人の華麗な推理」をはじめ、幼い頃の海堂がうかがえる「黒須姉妹再び」そして黒須姉妹最後の一人が登場する「最凶の敵出現!」の3本を収録(7)】

 腰が抜けそうなタイトルとは裏腹に、かっちりしたサスペンスとアクションを読ませてくれる、人気シリーズ続刊中です。テレビドラマ版「スケバン刑事」へのリスペクトが篭もっているこの作品も、長篇・短篇あわせて十七話まで進みました。やっぱりドラマっぽく、二クール、全二十六話で完結するのかな。


「紅蓮の翼 暁を招く神鳥
小柴叶/エンターブレインB's-LOG文庫/08年9月

【神鳥とは、地界の魔族に脅かされる人間を救うため、神が創り給うた新たな種族。天界でのんびりと暮らしていた神鳥の娘・カナイは、西の大国セレシェイアに「神降ろし」されるが、幼く臆病なカナイは自らの使命を激しく拒む。魅惑のキャラクターに彩られた幻想浪漫譚】

 主人公はチャイナ風、脇を固める男子は和風、洋風、アラビア風と、じつに節操のない世界観です。乙女小説の幕の内弁当。主人公の成長。男子たちの痛ましい過去と、そこからの克服。相手役とのあいだに生じる誤解と、それが融けた後のラブ展開。あれやこれやの盛りこみ方がシステマティックすぎる印象はありますが、誠実な作風は好ましいです。戦闘シーンの描写が濃厚なのもいい。

「赤いくつと悪魔姫
清水マリコ/エンターブレインB's-LOG文庫/08年9月

【「月の夜、黒羽虫に刺されて眠らされた女の子は、恋の夢を見続ける」 中性的な美少女・ハヤトのもとに、謎のメッセージカードが届いた。幼馴染の雕古とともに差出人をさがすハヤトは、妖しい美青年たちと遭遇する。黒羽虫の噂は現実なのか。甘くてせつないゴシック・サスペンス】

 まず、この表紙は嘘。ただのイメージ画像です。ファンタジー風ですが、中身は現代ものです。女子が男子に翻弄されるという、性別の役割がが逆になっただけで、120%いつものマリコ節。整合性なんか知るか。その場面、その場面の奇妙なリアリティを、主人公と同様に流されながら味わって翻弄される読みかたがいいと思います。基本的に饒舌で端正なんだけど、ときどき崩れた口語が混ざる、独特の文章が好きだな。

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